ハリエット・コルベールの看取り
うららかな収穫祭の午後、城下通りを歩くハリエット・コルベールの肩にガノスよりの使者が羽ばたくのを見かけた。神官トーアは吸い寄せられるように彼女の後を追いかけた。
トーアがエルネア王国に生きたこの11年間、ハリエット・コルベールが近衛騎兵隊に所属していない年はなかった。青年期の選抜トーナメントを含めて実に13年、ハリエットは騎士の道に生きた。
人生最期の日が収穫祭であろうとも彼女は北の森を警備しモフの毛を刈った。
ハリエットの父方は、初期王太子ボリス殿下の第2子ホルヘ系列ビリンガム姓である。先日ガノスへ召されたイシドロ・ビリンガムはハリエットの従兄弟にあたる。
ハリエットが騎士の道を志したのは、やはり母親のキャシー・コルベールの影響が強いだろう。あるいは母と同じ「エレクの翼」が彼女を駆り立てたのかもしれない。キャシーはエルネア杯にも出場した剣技の達人だった。コルベール家は母娘2代に渡って美人の女騎士をローゼル騎士隊に送り込んでいる。
ハリエットの母、キャシー・コルベールは、初期国民スーザン・コルベールの孫である。初期コルベール夫妻ベニートとローリーは、長女スーザン、次女リュボフ、長男ビッグの3子をもうけた。このうち、ビッグ系列のスーザン姓は彼の子供の代で断絶した。長女スーザンは、初期カーゾン家からウェイン・カーゾン(フランキー・カーゾンの兄)を婿に迎えていた。我がミリー国に現存するコルベール姓はすべてこのスーザン・コルベールに連なる。
「初期国民の婿入り」現象はこれで4事例目になる。ボヌー家、エニュレ家、シャイエ家、コルベール家でこれまで確認している。特にコルベール家では、長男ビッグが初期国民として生まれている状態での長女の婿取りであり、この現象が家名存続を目的としてなされているわけではないことの裏付けが一つ増えたことになる。最初に発見した時は不思議な事象だと思ったが、このペースで発見し続けるとなると、そこまで珍しいことではないのかもしれない。しかし興味深い事象には違いない。引き続きこの件については注意して追ってゆきたい。
ハリエット・コルベールは2人の娘がいる。長女ジョディはシャリフ姓を、次女イザベラはコルベール姓を名乗っている。イザベラ・コルベールは今年の選抜トーナメントに出場している。
収穫祭の熱気も冷めやらぬ宵の口、ハリエット・コルベールはガノスに召された。北の森から帰宅して亡くなるまでの4刻の間、ハリエットはベッドにも横たわらず椅子にも腰掛けず、モフの毛を抱き、背筋を伸ばして立ち続けた。物静かだが芯は強い彼女の生き方そのもののようだった。
死の間際、彼女の名前を呼ぶ夫のユベール・コルベールの声が、ひときわ悲しく感じられた。